エル・グリフォ(スペイン領 カナリア諸島)


それはシェイクスピアがたしなんだ美酒。
その味わいは恋に落ちる瞬間に似ている。

 モロッコ沖に広がるカナリー諸島の小島、ランサローテ島。
火山灰の地面に掘られたクレーターの中で、密やかに見事な黄金の房をつけているのは、平均樹齢100歳を超えるフィロキセラを知らない純血種のマルヴァッジア達だ。

シロッコの熱さに耐えて生まれてくるエル・グリフォ。

熔岩の上で育つ葡萄<スペイン、ランサローテ島のマルバシア>
 スペイン領カナリア諸島はスペイン本土からは1150キロと遠く離れ、アフリカ大陸モロッコから約115キロの沖合に浮かび、大小7つの島々からなる。
 年間平均気温が24度の温暖で海風が爽やかに吹き抜ける心地よい天候が一年中変わらずに続くため、ヨーロッパからのヴァカンス客に人気である。
 ランサローテ島もその一つだが、日光浴やマリンスポーツに興味のない人には観光名所も遊ぶ所も少ない。しかし、ワインに関心があれば、地球上でここにしか存在しない、非常に珍しい葡萄畑は一見の価値があるだろう。

 その一見の価値があるという葡萄畑は、海岸から内陸に入った火山のふもとに広がる。
熔岩、火山灰に覆われた真っ黒な大地。丘の斜面まで、何千もの、まるで月面のように小さなクレーター。この不思議な風景が葡萄畑だと気がつくまで、一瞬の戸惑いがある。
 しかし、小さなクレーターのそれぞれのなかには、確かに葡萄のそれらしい緑色の植物の葉の茂りが見え隠れする。

(「ヴィノテーク」1999年8月号より転載)

 
アフリカ大陸の熱風から身を守るために築かれた石垣。

ちょっと「ぶどう」のお話です。

マルヴォッジア―エルグリフォのぶどう品種
 かつてイタリアで最も優れたデザートワインの一つとして考えられていたが、歴史とともにいまや絶えつつある。
 1864年、ヨーロッパ全土のぶどう畑を絶滅の危機に追いやったフィロキセラ(ぶどうにつくアブラムシ)も、その気候の厳しさゆえこの地には上陸できなかった。
この地のぶどうの樹の年齢はゆうに百歳を超える。
 木の生命力をぎりぎりまで絞ったパワフルなエル・グリフォは類を見ないほど抜栓後も長命だ。


伝説の獣グリフォ

 エル・グリフォは一七七五年創設のボデガ(蔵)。グリフォという上半身が鷲で下半身がライオンという想像上の鳥をシンボルマークにしている。

 この名前はポルトガル語のグリファ、つまり不毛の地という意味の言葉からきているのだそうだ。グリフォはグリファからワインを産み出す守り神になっているかもしれない。現在ボデガは五代目が継承している。


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